自転車ブランドFACTORが、「Temple of Speed Exhibition(スピードの殿堂)」と題した特別なポップアップイベントを、2025年4月9日から13日までの5日間、京都で開催した。開催場所には伝統的な京町家「京扇子 大西常商店」が選ばれ、日本の伝統美と最先端バイクテクノロジーが融合する特別な空間となった。
「Temple of Speed(スピードの殿堂)」という名称は、イタリアの有名なF1サーキット「モンツァ」の別称に由来している。世界最速のレーシングカーが走るサーキットからインスピレーションを得たこの展示会は、FACTORの速さへの探求と情熱を象徴するイベントとなった。
同イベントは、サイクルアパレルブランドのラファ(Rapha)が日本で初めて開催したRCCサミット(Rapha Cycling Club Summit)と同期間に行われたもので、世界各国から150人以上のサイクリストが京都に集結した。FACTORとRaphaという二つのプレミアムブランドのコラボレーションによる展示は、多くの来場者を魅了した。
CEOが語るFACTORの歴史とフィロソフィー
イベント初日の4月9日には、メディアや販売店などの関係者向けにFACTOR CEOのカルヴィン・チャン氏による特別講演会が「京扇子 大西常商店」2階大広間で行われた。築100年以上の歴史を持つ京都の老舗扇子店での講演は、伝統と革新を重んじるFACTORの企業姿勢を象徴するものとなった。日本語への通訳はFACTOR、CORIMA、4iiii、TNIなどのブランドを取り扱う自転車部品の卸売販売「株式会社トライスポーツ(TRISPORTS Co., Ltd.)」の取締役社長の磯山進輔氏が担当した。
チャン氏は講演の中で、FACTORの設立背景と成長の歴史について詳しく語った。「FACTORは現在9年目を迎え、13種類のモデルをラインアップしている」と説明し、設立当初はわずか2種類のモデルしかなかったことを明かした。わずか9年でこれほどの成長を遂げたのは、品質と性能に対する揺るぎない信念があったからこそだと強調した。
特に熱く語られたのは、FACTOR創業者のロブ・ギディス氏の哲学だった。「最初の20年間、ロブは他のメーカーのバイクを製造していた。この間、より良いバイクを作るための機能を追加したいと思っても、クライアントから断られることが多かった」と説明。ブランドの誕生には深い挫折と情熱の歴史があったことを語った。
「時にはわずか5〜10ドルのコスト増で実現できるアイデアでさえ拒否された」と明かし、20年の経験を経て「最高のバイクを作るには自分自身のブランドを立ち上げるしかない」と決断したという経緯を明かした。
技術力の核心に迫る
講演はさらに技術的な内容に踏み込み、FACTORのバイクが速い理由について具体的な説明があった。チャン氏は「バイクを開いて内部の素材をお見せしない限り、私たちがどれだけ高品質な素材を使用しているかはわかりません」と述べ、会場に展示されている断面モデルを示した。
FACTORの特徴は、カーボンレイヤーの精密な配置と特殊素材の使用位置にある。一般には見えないフレーム内部の構造こそが、バイクの性能を左右する重要な要素だとチャン氏は強調。素材を適材適所に配置することで、剛性と軽量性、空力性能のバランスを最適化していると説明した。
特に印象的だったのは、製造過程の各段階におけるフレームのコストに関する言及だ。FACTORが使用する素材の原材料コストだけでも、一部の完成品バイクよりも高価であるという。「ロブはバイクを設計する際に、’高すぎるからやめよう’とは決して言わない」と話し、コストよりも性能を優先する企業理念を明らかにした。
専用工場がもたらす品質管理
チャン氏の講演では、FACTORが専用の製造工場を持つことの重要性も強調された。これにより、プロチームやライダーからのフィードバックを素早く製品に反映できるという利点があり、専用工場だからこそ可能になる迅速な対応について説明したほか、FACTORの製造過程では徹底した品質管理のもとで行われていると触れた。
ブランドの将来とビジョン
講演の中盤では、最近話題となった中国からの新規投資についても言及があった。「ロブとChris Froomeはいずれも自分の株式を売却していない。経営陣も工場も変わらず、これからも世界最高のバイクを作り続ける」と明言し、ブランドの方向性が変わることはないと強調した。
新たな投資によって、今回のような展示会や新製品開発のためのリソースが増えたことを肯定的に評価。継続的な技術革新と製品開発に力を入れていく姿勢を示した。
講演の終わりには、チャン氏はこのような展示イベントについても「今後も他の国や都市でこのような展示会を開催していきたい」と意欲を示し、ブランドストーリーをより多くの人々と共有していく計画を明かした。「私たちが実現したいのは、ディーラーの皆さんと協力して、なぜFACTORが優れているのかをお客様に伝えていくこと」と述べ、販売店との協力関係の重要性を訴えた。
展示会の見どころ
会場となった京町家は、各部屋ごとに異なるテーマが設けられた展示空間となった。FACTORの現行モデルが展示されたほか、各モデルの特徴やテクノロジーを説明するパネルが配置された。
2階には製造工程の展示エリアがあり、カーボンシートの原材料から成型、塗装に至るまでの各段階が実物サンプルとともに紹介された。チャン氏も語ったカーボンレイヤーの積層サンプルと断面モデルは、内部構造の複雑さと精密さを実際に見ることができる貴重な展示となった。
SLICKモデルの特徴的なTwin Vane Evoダウンチューブなど、FACTORならではの革新的な技術も詳しく解説された。このダウンチューブは空力的効率とフレーム剛性を両立させるために2本にしたもので、001から始まったFACTORの歴史の中で、エアロダイナミクス開発の重要性を示す技術だ。
Raphaとのコラボレーションによるアパレル展示も行われ、RCC(Rapha Cycling Club)のオリジナルカラーのFACTORバイクも展示され、参加者による写真撮影が行われていた。
日本の伝統工芸との融合
今回の会場となった大西常商店は、約100年にわたって京扇子の製作を続ける老舗工房。会場では「Temple of Speed」の世界観と京都の伝統美が見事に調和し、最先端のカーボンテクノロジーと日本の職人技が融合した特別な空間が創出されている。満開の桜の季節に合わせて開催されたこの展示会は、FACTORのブランド哲学を日本の文化的背景の中で体験できる稀有な機会となっていることは間違いないだろう。
FACTORの歴史 – モータースポーツからサイクリング世界へ
会場内では資料としてFACTORの年表も展示されている。FACTORの歴史は2007年、イギリス・ノーフォークにあるBF1 systems社から始まった。フェラーリ、アストンマーティン、ランボルギーニ、マセラティや、F1、Moto GP、WRCチームなど、世界で最も速く、最も名高いブランドの仕事を手掛けてきた最高レベルのデザイン・チームによってFACTORは設立された。
2009年に誕生した最初のモデル「THE 001」は、F1的な発想で作られた革新的な自転車で、ロンドン科学博物館に展示されるほどの注目を集めた。その後、アストンマーティン社とのコラボレーションモデル「THE ONE-77」、UCI公認レースバイク「THE ONE」、軽量クライミングバイク「O2」など、革新的なモデルを次々と発表。
2020年には「OSTRO VAM」が誕生し、ワールドツアーチームであるイスラエル・プレミアテックとの協力によって、プロの最前線で活躍している。2021年には世界最速を目指したタイムトライアルバイク「HANZŌ」も開発し、忍者の刀を模した名前のとおり、極限の速さを追求している。
イベント概要
- 名称:FACTOR Temple of Speed Exhibition
- 期間:2025年4月9日(水)~4月13日(日) 11:00~18:00
- 場所:京扇子 大西常商店(京都府京都市下京区本燈籠町23)
- アクセス:京都市営地下鉄四条駅5番出口から徒歩7分
- 入場:無料
- 主催:FACTOR / TRI SPORTS(日本総代理店)
チャン氏は講演の締めくくりで「イノベーション、スピード、パフォーマンスに対する私たちの飽くなき追求は当初から一貫している。レースは私たちのDNAの中にあり、それはモータースポーツにおける私たちのルーツに直接つながっている」と語った。高級自転車ブランドの世界では後発組ながら、その技術力と哲学で確固たる地位を築きつつあるFACTORの今後の展開に、大きな期待が寄せられている。