【インタビュー】アラスカから拓く夢の軌跡 茨大生の挑む8300キロ自転車旅(第1回)

【インタビュー】アラスカから拓く夢の軌跡 茨大生の挑む8300キロ自転車旅(第1回)

 2025年6月、アラスカ最北端から一台の自転車が走り出す。その先には、約8,300kmの道のりが続いている。茨城大学人文社会学部3年の内田康太さん(21)が挑む北米大陸縦断の旅。エベレスト11個分の標高差と、日本列島4つ分の距離を、約5カ月かけて走破するチャレンジだ。自転車との出合いから、わずか2年。これまでと、未知なる冒険への思いを追った。


内田康太(うちだ・こうた)
2004年1月7日生まれ(21歳)
埼玉県出身
茨城大学人文社会科学部3年
大学2年次から自転車を始め、これまでに四国一周や 北海道での長距離走行を経験。
好きなもの:自転車旅、キャンプ、料理
YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@uchidakota
Instagram
https://www.instagram.com/ucchida_kota?utm_source=qr


出会いから始まった夢

 「全部見終わったとき、もう心は決まっていました」 茨城大学3年の内田康太さん(21)が、運命的な出会いを振り返る。きっかけは、YouTubeのレコメンドに表示された一本の動画だった。オランダ人ライダー、マーティン・ドーラウドによる南米縦断の記録。カリフォルニアからパタゴニアまでの旅を記録した4部作の映像との出会いが、内田さんの人生を大きく変えることになる。

 さいたま県出身の内田さんは、もともとキャンプに興味があったという。その延長で移動手段として自転車に注目し始め、動画との出会いを機に本格的に興味を持つようになった。「映像を見て、すぐに自転車を買い求めました。自分でも驚くほど早い決断でしたね」

バイクパッキングとの出会い

 バイクパッキングとは、生活のすべてを自転車に積み、野営を伴いながら野山を旅するよりアドベンチャー志向な旅の形だ。北米で生まれたこの文化は、世界中のサイクリストを魅了している。

 内田さんの場合、キャンプと料理が趣味だったことも、このスタイルと相性が良かった。特に飯盒(はんごう)の使用にこだわるのは、燃料の効率的な使用が可能だからだという。「二重構造になっているので、一度の調理で二品作ることができます。長期の旅では、そういった効率も重要になってきます」

バイクパッキング装備の内田さんのバイク(1台目)

四国一周での転機

 昨年3月、内田さんは四国一周に挑戦。3月2日から18日までの約2週間の旅は、彼にとって大きな転機となった。

 「四国は、お遍路さんの文化に代表されるように、大昔から旅の文化が根付いている場所です。初めて本格的に、その土地特有の文化や風習の違いに触れることができました」

内田さんのYouTubeチャンネル【バイクパッキング】生後20年男の四国一周冒険記」として、四国一周冒険の様子を公開している

 特に印象的だったのは、通行止めだった四国カルストでの出来事だ。「天狗高原にどうしても行きたかったんです。雪で通行止めでしたが、もしかしたら行けるかもしれないと思って、行けるところまで行ってみました」

 実際に行ってみると、自転車は通行を許可され、目的地にたどり着くことができた。道中、一台の軽トラックを見かける。後ろに小さな家がついているその車の持ち主と、30分ほど立ち話をすることになった。「その方がクラウドファンディングで旅をされていると知り、新しい可能性を感じました」

バイクパッキングの聖地を目指して

 内田さんが目指すグレートディバイドマウンテンバイクルート(GDMBR)は、世界で最も有名なバイクパッキングルートの一つだ。その特徴は主に3つある。

 まず、景観の美しさ。ロッキー山脈をなぞるように伸びるこのルートには、日本では見られないスケールの景色が待っている。「プレミア・ロングディスタンス・マウンテンバイク・ルート」の異名がつくほどの絶景が、多くのサイクリストを魅了してきた。

 次に、様々に変化する環境。70日間に及ぶ4,300kmのルートでは、山岳地帯から砂漠地帯まで、幅広い環境を走ることになる。「地形や天候、気温や湿度などの変化をダイレクトに感じながら旅ができる。自転車旅ならではの魅力が最高レベルで用意されています」と内田さんは語る。

 そして、独自の文化。GDMBRは完成から28年もの間、旅を愛する多くのサイクリストたちを巻き込みながら独自の文化を作ってきた。途中の経由地の町々はサイクリストたちの拠り所となり、深い歴史を刻んでいる。

過酷なルートへの挑戦

 しかし、その道のりは決して平坦ではない。特に最初の難関が、アラスカのダルトンハイウェイだ。「全長666kmの間、補給地点は一切ありません。トラック運転手の休憩所はありますが、食料の補給はできない。グリズリーやムースなどの危険な動物も生息する、まさにワイルドな場所です」と内田さんは説明する。

 6月という出発時期にも明確な理由がある。「極北なので、この時期がようやく人が入れる季節。アラスカの短い夏を追いかけ、8月中旬にはグレートディバイドに入る必要があります。そして10月までに砂漠地帯を抜けなければ、水の確保も困難になります」

 さらにカナダでは、ジャスパー国立公園とバンフ国立公園をつなぐアイスフィールドパークウェイを走る予定だ。『ナショナルジオグラフィック』誌で世界の絶景の道として紹介されているこのルートは、氷河や渓谷、巨大な湖など、圧倒的な大自然の中を約3日かけて進むことになる。

綿密な装備計画

 このような過酷な環境に向けて、装備選びにも妥協は許されない。内田さんが選んだのは、KONAのユニットX2024モデル。アルバイトで資金を貯め、昨年10月に納車となった。2.6インチの太めのタイヤが特徴的なこのバイクを選んだ理由を、内田さんはこう説明する。

 「オフロードの走破性、荷物の積載能力、そして価格のバランスを考えました。フレームはクロモリ製で耐久性が高く、キャリアを取り付けるための穴も多い。ダウンチューブの下には2リットルの水を取り付けることができ、長距離の補給なし区間でも対応できるよう考えています」

出会いが導く日々

 昨年4月のSNS開設から、内田さんの本格的な準備が始まった。まず取り組んだのは、経験者との対話だ。5月に茨城で「まろ旅」さんに会い、その後東京で「空知」さん、「LANY」さんと面会。7月末から8月にかけては、宮城から大阪、名古屋まで、日本中の経験者を訪ね歩いた。

 10月にバイクが納車されると、実践的な準備も本格化。兵庫で開催されたJACCペダリアンの集いにも参加し、より専門的な知識の習得に努めた。

 「アメリカに行ったことのある方、自転車で旅をした経験のある方から、具体的なアドバイスをいただきました。例えば、野営場所の選び方一つとっても、後から人が来ないよう気をつけるべきだ、など。そういった現地の事情を、日々少しずつ学んでいます」

大学生の決断

 大学休学という決断について、内田さんの考えは明快だ。「自分はあまり深く考えないタイプなんですけど」と笑いながらもこう続ける。「何かを得るためには必ず何かを失う。だから感情で決めてもいいんじゃないかと思ったんです」

 国立大学であることから休学による経済的負担は少なく、バイク乗りの父親をはじめ、はじめは反対した母など、家族の理解も得られたという。「いろいろな人に『自分はこんなことがしたいんだ』と語りました。『いいじゃん』『やってみたら』と背中を押してくれる声もあり、少しずつ準備を進めていく中で、家族からも自然と受け入れられていきました」

支援の輪と熱い思い

 現在、クラウドファンディングでの支援は目標額の86%を超えた(2025年2月4日12時時点)。しかし内田さんは「本当に申し訳なさすら込み上げてきます」と率直な思いを語る。

 「正直に言えば、これは僕の独りよがりな挑戦です。普通のクラウドファンディングなら社会的な意義があるものが多い中で、僕がやりたいことのために支援していただいている。その気持ちに、どう応えていけばいいのか」

 ただ、この旅を通じて伝えたい思いもある。「夢中になれることの素晴らしさを、より多くの人に届けたい。僕自身、これまでの自転車旅で、本当にたくさんの方々の生き方に触れてきました。そこから、自分の可能性も少しずつ見えてきた。この経験を、必ず還元していきたいと思っています」

未知の大地へ

 6月のスタートに向け、準備は着々と進んでいる。現地での交流も楽しみの一つだ。「ウォームシャワーズというサイクリスト向けの宿泊ネットワークがあります。これを利用して、現地の人々との出会いも大切にしていきたい」

 過酷な道のりになることは間違いない。「急なアップダウンを繰り返す日もあれば、グリズリーの生息する地域で一夜を明かすこともある。天候の変化にも常に対応していく必要がある」。しかし、だからこそ行きたいという思いは強い。「より深いバイクパッキングの世界を感じたい。アメリカの中でも馴染みのない地域の様子も、皆さんにお伝えしていきたい」

 2025年6月、アラスカの地で一台の自転車が走り出す。そこから始まる約5カ月の旅は、きっと内田さんに、そして応援する人々に、かけがえのない物語を残すことだろう。

■ルートデータ
総距離:約8,300km(日本列島4つ分)
獲得標高:約100,000m(エベレスト11回分)
予定日数:約5カ月
主要ルート
・ダルトンハイウェイ(約666km)
・アイスフィールドパークウェイ
・グレートディバイドルート(約4,300km)

■必要資金(概算)
・食費:2,500円×180日=450,000円
・キャンプ場:2,000円×30日=60,000円
・宿泊費:8,000円×20日=160,000円
・渡航費:往復航空券+荷物=320,000円
・その他(通信費、入園料等):84,000円
総額:約160万円(うち自己資金120万円)

【実施中】クラウドファンディング「【アラスカ→メキシコ】やるなら今だ!! 大学生による北米大陸縦断、自転車の旅」

内田さんSNS
YouTubeチャンネル https://www.youtube.com/@uchidakota
Instagram https://www.instagram.com/ucchida_kota?utm_source=qr

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