土浦在住のプロロードレーサー西尾勇人選手(ハヤティ)が講師を務めるロードレーススキルアップの特別体験講座が1月19日に笠間市のセーフティショップおおしま主催(運営:合同会社LOYNS)で開かれた。ロード歴12年(ゆるぽた派サイクリスト)の筆者が講座に参加した模様をレポートする。
イントロダクション~自分はフィジカルに恵まれている方ではないので…
170台後半が中心のプロロードレーサーの中で身長171cm、体重59kgのハヤティは比較的小柄な方で決してフィジカルに恵まれている方ではない。※タディ・ポガチャルは176cm/66kg
そこでいかにして自分の持っているパワーを最大限、機材に効率よく伝えていくかに焦点を当てて、独自のメソッドやポジショニングを突き詰めてきたのだとハヤティは語ってくれた。
当日の流れ、プログラム
今回の特別体験講座は笠間市内の自転車店「セーフティショップおおしま」がショップチーム向けに行ったクローズドの体験会で参加者は全員顔見知り、店長含めて14名の参加者だった。
当日の天候は曇り、最低気温-2度、最高気温8度。盆地の笠間市は茨城県内でも特に寒い地域だ。かじかむ手足を温めながらショップ前をスタートし、ウォーミングアップを兼ねて郊外の県道へと自転車を走らせた。
プログラムは大きく分けて、実走パート(乗車時の姿勢確認、フォーム、ポジションセッティング)と座学パート(ハヤティによるフォーム理論、ポジション指導)に分かれる。午前9時に実走を開始し、座学パートが終わったのは午後2時。昼食を含む計5時間のカリキュラムだった。
①実走~ハヤティの乗車姿勢
笠間市総合運動公園横から入る広域農道(通称ビーフライン)に入ると、隊列を整えてローテーションしながら一人ずつハヤティの乗車姿勢を後ろから見学する。アップダウンの続く道を平均3倍の強度で淡々とのぼるハヤティは、思いの他ケイデンスが低く上半身が左右に揺れているのが印象的だった。
しばらく走ると広いスペースがある場所に到着した。通行の邪魔にならないよう集まり、ここまでで気が付いたところを順次ピックアップする。
やはり話題に上がったのはハヤティの上半身の揺れ。これまで上半身は軸がぶれずに固定している方がいいと聞いており、筆者も日ごろからなるべく姿勢がガッチリ固定するイメージだったが、ハヤティは真逆だという。
「僕は上半身、特に胸から上はほとんど力を入れません。力を入れるのはお腹周りだけです。下手したら足にも力はあまりかけてないと言えます。だから上半身は自由にぶらぶらとしてていいんです。」
ここで本日一つめの衝撃が参加者に走った!
有料講座なので詳細は書けないが、上半身は常に力を抜いてポジションもエアロになりすぎないようにするのが最新のトレンドとりこと。
かのトップレーサー、タディポガチャルも以前はエアロを追求していた時期があったが、最近はエアロよりもペダリング効率を追求したフォーム中心にグランツールを戦っているのだとか。たしかに極端なエアロポジションを取ることはまれでほとんどの場面では上ハン(ブランケット)を持っていることが多い。
②動画撮影
本日の講座のキモとなるのがハヤティによる個別動画撮影。一人ひとり実走する様子を動画撮影し、後半の座学パートでハヤティと一緒に見ることでペダリングや乗車姿勢、ポジショニングのアドバイスを受ける。
最初にシッティング状態で70%くらいのパワーで坂道を上るシチュエーションで動画を撮影した。休日の広域農道とはいえ通行する車はあるので、周囲の安全に気を配りながらサポートスタッフのケイティの合図で一人ずつスタートする。筆者もなるべく普段通りのポジション、ペダリングをするように思いながらペダルを回すも、「プロが見ている、動画を撮られている」という意識でどうしても肩に力が入ってしまう。ギクシャクしながら50mほど坂道を上った。
シッティングに続いて、ダンシングの乗車姿勢の撮影も行った。ダンシングはシッティングよりも個々のフォームの違いがよくわかり、中腰前傾で細かくバイクを振る人もいれば、体重をかけてゆっくりハンドルを押し込むタイプの人もいるなど個性が出る部分。十人十色の乗り方があるが、はたしてどれが正解なのだろうか?参加者も一様に他人のフォームを気にしながらの撮影会となった。
最後にお手本ということで、弟のケイティによるダンシングスプリントを披露してもらう。この日はレンタルバイクを使用していたため、サイズが合っていないとのことだったが、小気味よくバイクを振りながら坂道を駆け上がっていくケイティに参加者からも感嘆の声があがる。
③座学(動画解説~効率よくライドするための極意)
1時間ほどの実走を終えて近くの集会場に戻ってきた一行。先ほど撮影したそれぞれの走行動画を見ながらハヤティによる解説が始まる。
いくら顔見知りのショップチームとは言え、自分のフォームを動画で回りに見られるのは少し恥ずかしい気もしたが、そこがこの講座の肝なのかもしれない。実際十数名のフォームを次々見ると、まったく違う部分や共通している部分など、相対的に比較することもできる。そこにハヤティが一人ずつコメントを加えることで、どの部分を改善するべきかがリアリティを伴って理解できる。
今回、共通して注視した部分はペダリングと上半身の姿勢。腰の位置と腕回りがどのようになっているか。ここでも詳細は省かせていただくが、総じてペダリングについてはかかとが下がる「アンクリング」になっている人が多く、上半身については肩肘に力が入ってぎくしゃくしている人が多くみられた。またサドルからお尻がポンポンと浮くケースも散見され、ハヤティ曰く「ケツ圧」が足りないとのこと。
肝は「腹圧」
ハヤティも以前は100km以上のレースでは脚が売り切れる(大腿四頭筋が消耗)ことで勝てないことが多かったとのこと。そこでポジション、フォームを徹底的に見直すことで、脚を残したままレースを走り切ることができるようになった。ハヤティが乗車時に最も意識することは「腹圧」。腹圧を高めることを中心にしたフォームを完成させることで、上半身は余計なところに力が入らず、リラックスした状態で下半身に力を伝えることができるとのこと。下半身についても脚でペダルを踏むのではなく、お腹からの力を下半身に伝えていくことで、自然とスムーズなペダリングができるようになる。
腹圧を保ったままの乗車姿勢は…とこの先は有料講座受講者の方に申し訳ないので、本記事では以上とさせていただくが、講座を終えてから一週間。その間も参加者間のSNSではポジション出しに試行錯誤している様子が見てとれる。もう歳だから速くはなれないと思っていた筆者をはじめ、参加者には新たな発見といい刺激になったようだ。
ハヤティ自身も「僕が見てああだこうだとポジションを教えることはできますが、それが本当に自分に合っているかは本人しかわかりません。ただし、正しいポジションに収まったとき、これだ!!と明らかに変わります。その違いを見つけるお手伝いをできればうれしいですね。」と語っている。茨城を中心にサイクリストやレーサーの展開にも期待ができる取り組みとなった。
ハヤティサイクルラボは不定期開催だが、みなさんからのリクエストがあれば出張講座や個人トレーニングも対応している。問い合わせは専用フォームまで(https://forms.gle/Zcg87rqPSmvGvwjS8)
西尾勇人(ハヤティ)プロフィール
生年月日:1994年1月9日
出身地:北海道
身長:171cm
体重:59kg
血液型:A型
脚質:オールラウンダー
性格:マイペース
趣味:カフェ巡り
特技:スキー
<レースリザルト>
2015年 修善寺オープンロード(100km)優勝(学生)
2016年 全日本選手権U23 9位(那須ブラーゼン)
2022年 ツール・ド・おきなわ チャンピオンレース4位(那須ブラーゼン)
<略歴>
2009〜2011 札幌拓北高校自転車競技部
2012〜2015 順天堂大学自転車競技部
2016〜2022 那須ブラーゼン 7年
2022〜2023 さいたま那須サンブレイブ(那須エリア)1年
2024〜現在 セブンイレブンロードバイクフィリピン所属